もう寝てしまいたい、

・・・確かにそう思ったけれど、自宅まで先生を呼びだしておいてこのまま帰すとほんとに僕達はバカップル決定だよなぁ。


ぼんやりした頭で、ヨイショと、ベッドから降りる。
一応パジャマの上下はつけてるし、ギイがしっかりカラダを拭いてくれたので、いかにも情事の跡です的なベトベトではない。



「いい加減にしろ!いいから診察をさせろ!私は君とくだらない漫才をしに来たんじゃないぞ!?」
「だーかーらっ!さっきの絶対条件を飲むと約束を」

先生がギイに怒鳴っているソファを目指した。
二人とも僕に気が付いていない。

「先生」
「はい?」

呼びかけると、先生が目を上げてこちらを見てくれた。

ギイは僕に背を向ける格好だったけれど、驚いて振り向く。
僕が起きてるとは思わなかったのだろう。

「タクミさん、歩いて大丈夫なのですか?」
「託生!出てきちゃだめだろ!!」

ふふ。
二人とも同じ顔してて、おもしろいなぁ。

「ええ、大丈夫ですよ先生、どうぞご心配なく」

まあ、ちょっと地面傾いてるけどね。
大丈夫でしょ?コレぐらい。
だって僕、ちゃんと立ってるもんね。

僕はそのまま先生の座るソファの前まで行って、パジャマのボタンを外した。
手っ取り早く診察してもらおうと思ったからだ。
だってギイに任せていたら、このまま夜が更けてしまう。

「タクミさん!?」
「た、託生!!!???」

二人とも目を剥いてこちらを見ている。
ほんと、同じ表情してるな、二人とも。

「何してるんだ、お前っっ」

あ、そっか先生座ってるし、これじゃ見えないか・・・。
そりゃ、あまり意味がないよね。

「ねぇ、先生・・・」

僕はおもむろに先生の膝をまたいで、先生の顔の前にくつろげた胸を差し出した。

「診てくださいます?」
「託生ー!!」
「タ、タクミさ・・・」

なぜか先生が真っ赤になって、勢いよく立ち上がった。

「あっ」

その拍子に僕はバランスを崩して、横に倒れそうになる。

「あ、危な!」

先生は慌てて手を伸ばしてくれたけれど、とっさのことで先生もバランスを崩したみたいた。
そのまま上に倒れ込んでくる。
背中が、ソファの座面に受け止められたのが分かった。
ほっとして上を見ると、先生が僕の顔の横に両手をついて、覆い被さるような格好になっている。
顔が間近にあって、先生のギイのブラウンより明るい琥珀色の瞳がよく見えた。
今は驚いたように見開かれて、適度に日焼けした頬は紅潮している。
なんとなく二人で見つめ合った。

先生、ハンサムだなぁ。

「先生」
「・・・タクミさん」
「せ、先生ー!何してんだアンター!」

一瞬の後、立ち上がったギイの絶叫が部屋に響きわたった。

「・・・あっ、これはその・・・おわっ」

先生が慌てて立ち上がろうとして、またバランスを崩して今度は床に落ちた。

「せ、先生!大丈夫ですか!?」

なんだか状況がよく飲み込めないものの、先生がどうやら僕のせいで床に落ちたと理解する。
助け起こそうと手を伸ばしたけれど、飛んできたギイに手が払われた。
今、バシって、音が鳴ったよ。バシって。ちょっと、手痛いんですけど?
助けなきゃいけないよね?
僕、間違ってないでしょ、だって僕のせいなんだし。

「ギイ?」
「先生、大丈夫ですか?一人で起きあがれますよね」
「・・・当たり前だ」

ギイが仁王立ちになって先生を上から見下ろすと、先生が腰をさすりながら身を起こして、憮然と返事をした。
そのままギイと二人で沈黙する。

「・・・診察はするぞ。言っておくが、患者の希望だからな」
「っ、だ、だめだと言ったら?」
「君は、その状態のタクミさんを野放しにするのかね?」
「くっ。それは少し、いや、だいぶ危険だ!」
「だろう。悪い虫が何百匹釣れるのか予想もつかないからな。ならば診察は行う。君は席を外してなさい。いちいち騒がれたらうるさくてかなわん」
「なっ・・・先生、それはあまりにも呑みがたい条件ですよ!」
「うるさい!私は医者だ!そして患者は、君ではない!」

先生が一喝する。
尤もだ。
でも、悪い虫がどうこう言ってたけど、僕ってただの風邪とかじゃないの?細菌性とか、そいういうヤバいのなの?
どうしよう、ギイに感染したら大変だ。もう手遅れかも知れないけれど。

「あの・・・先生、よかったら・・・ここではなく僕の部屋に」
「それはもっとダメー!」

ギイが飛びついてくる。

「それはダメだから、託生」
「そう?・・・先生、そうなんですか?」
「君は私をなんだと思ってるんだ」
「くっ!こうなったら致し方あるまい。背に腹は代えられません。わかりました、先生、ここで託生を診てやってください。俺は席を外しますから」
「ふん、はじめからそう言ってるんだ。全く手をかけさせて」
「さっきの先生見てたらとても安心できないんですけど、俺」
「気のせいだ」
「いや絶対違う」

先生は落ち着きを取り戻したようにいつもどおりな感じだけど、ギイの様子がずっとおかしい。
まあ、いつもこんなものかもしれないけれど。





で、ですね・・・どうなったかというと。
結局ギイは部屋を出ていかず、僕はベッドに戻ってそのまま診察を、受けることになったのだが・・・

「・・・義一君、君ね・・・病人に何してたの?」

僕の背中を見た先生が心底呆れかえった声を出したので、僕はやっぱり今日は診察はやめておくべきだったのだと思った。
今更ながらの話だけどね。
そういえば、事後に体を拭かれながらいっぱいキスされたのを、忘れてた。当然ついてます、キスマーク。

「いつもの生活習慣をいつも通りに行っただけです」
「・・・あ、そう」

先生は絶句して、それ以上何も話さなくなってしまった。気のせいか顔色が悪い気がする、
そしてそれ以上何も言わずに淡々と診察をこなし、過労からくる発熱と診断して、
”これ以上決して盛り上がらず今すぐ寝るように、いいからさっさと寝ろ”
と釘をさして帰って行ったのだった。







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これで最終回でございます、すごく軽いノリで書かせていただきました。
シリアスシーンゼロどころか、たくみ君の天然に拍車がかかって周囲がすごい迷惑です。
できれば私も迷惑をかけられてニヤニヤしたいです(笑)
面白いので、定期的に夜中に先生を呼ぶとよいかもしれません。
ただのバカっぷるを書きたかったので、本当に楽しかったです。

デッサン 9への拍手ありがとうございました。

またしのさま、らっきーさま、たんちゃんさま、三平さま、まちさま、柚乃さま、ちーさま、コメントありがとうございました。
こんな感じで、常にギイにはライバルが出現するという状況だと楽しいなぁと思います。
叩いても叩いても次の奴が出てきてもう叩ききれません、みたいな・・・
あれ、叩ききれないとどうなるんだ?ギイがんばれ。